訪れる人と、それらの人を迎える地域や人の間の「やりとり」は、さまざまな「ものがたり」を生みます。
一時の消費・発散・通過だけではない、人と人、人と地域の「かかわりあい」から立ち上がってくる何かをすくいとる「観光のかたち」を構想し、その成果を社会に還元したいものです。
それが「ものがたり観光行動学会」のめざすところです。
「国の光を観る。もって王に賓(ひん)たるに利あり。賓たらんことを尚(こいねがう)なり」
ここで「国の光」とは、豊かな自然や人々の暮らし、優れた文化のことでしょう。それに触れた王は、心身ともに充実し、ひるがえって「新たな光」を発し始めるというわけです。
「観」は「見る」だけではなく「示す」をいう意味をもはらんでいたのです。
それが今、わたしたち庶民の楽しみになりました。美しい風景、地域ごとに特有の豊かな暮らし、おいしい食べ物、面白い芸能や芸術、未知の人との出会いなどは、すべて「観光」なのです。そんな体験は、おしゃべり、写真や絵、詩歌や紀行文などを通して、ほかの誰かに伝えたくなります。
ここに新しい「ものがたり」が誕生します。それだけではありません。こうした体験をきっかけに、ふだんの暮らしを、ちょっと楽しく快い方向に変化させたくなるかもしれません。これもまた「観光」の名で呼びたいものです。
それは、訪問者だけの特権だけではありません。しばしば訪問者は、わたしたちみずからが暮らす場所の未知の価値を教えてくれます。すると、その価値に磨きをかける道筋が見えてきます。
こうして、新たな「光」を示すための「ものがたり」が生まれます。それに、生身の人と人との親密な出会いが、いきいきとした命を吹き込んでくれます。
これまで観光地といえば、あるとき人々がどっと押し寄せ、まもなく忘れ去られて寄り付く人もいなくなる場所のことでした。そんな観光地のありようを変えたいものです。
べつだん世界遺産や国宝がなくても、すべての町や村には、必ず人を惹きつける何かがあります。特有の自然や風物、歴史や文化、物産や暮らしのなかに、訪れる人と暮らす人を、ともに元気づける「ものがたり」を見つけることで、そのことが実現できます。
ものがたり観光行動学会